I~VIIIの8編からなる連作短編集「アサイラム・ピース」。
「アサイラム・ピースⅣ~Ⅷ」は、後半の4作にあたります。
外界での生活に未練を断ち切れない4人の患者の絶望が描かれています。
一作一作が、頭の中に映像が浮かび上がってくるような見事な情景描写。
例えていうならば、繊細なクリスタルガラスで作られた工芸品。
まぎれもない芸術です。
全ての説話は、最後の数行で描き出される絶望に向かっていくようです。
アサイラム・ピースⅣ
隔離病棟での暮らしに馴れてきたと思しき、マドモアゼル・ゼリ。
でも、それは危うい均衡でしかなかったようです。
長い間、疎遠だった両親が訪ねてくるも、
担当医師は、ゼリの症状が不安定になることを懸念して、面会を許可しなかったのです。
両親の来訪を知らされたゼリ。
「母さんが、ここにいた・・・そして帰ってしまった・・・私に会わずに!」
結局は、ガラス細工のようなマドモアゼル・ゼリのバランスが崩れていきます。
そこからは、最後の数行を目掛けて、最悪の結果が描かれます・・・。
アサイラム・ピースⅤ
若い女は、今日からここで暮らすのである。
どんな様子かというと・・・、
「身なりはきちんと整えていて、
彼女にとって生きていることを示す最後の力の証なのだろう」
憔悴しきった様子で病室のベッドの腰を下ろす。
ここでも、その落ち着きは危うい均衡でしかなかったようです。
走り去る車の中に、夫の後姿を見て取った瞬間にすべての均衡が崩れてゆく。
そこからは、最後の数行を目掛けて、壮絶な様子が描かれます・・・。
アサイラム・ピースⅥ
アサイラムにやって来たばかりの女性。
洗練された身なりや立ち居振る舞いから、地位の高い暮らしをしてきたことが伺えます。
ただ、彼女は属する世界で、耐え難いことがあったようです。
それゆえここにいるのでしょう。
そんな女性と、地方から出てきた働き者の心優しい看護師との交流が描かれています。
この章だけは、一筋の光明が見えるようです。
アサイラム・ピースⅦ
陽気で周りの皆を楽しませる術を知っているマルセル。
同じテーブルで食事をする皆が、この陽気な若者に賞賛のまなざしを向ける。
ほどなくすると、マルセルは心の中でつぶやく。
「そろそろ他の誰かに代わってもらう時間だ・・・」
テーブルを後にするマルセル。
彼が向かうのは、湖。
そこには手漕ぎのボートが繋がれている。
ボートに乗ったマルセルにはどんな運命が待ち受けていると思いますか?
ここでも最後の数行に、悲しい結末が描かれます。
The post 隔離病棟の4者4様の絶望を描ききる、アンナ・カヴァン「アサイラム・ピースⅣ~Ⅷ」。 first appeared on 本コミュ読書会|本のことを話したい人はここに来て!.