「氷」は、1967年に刊行されたイギリスのSF長編小説。
この作品は、普通の小説ではありません。
次第に氷に閉ざされてゆく終末期を迎えた世界でのお話。
主人公である「私」は、ひとりの少女を追い求め、旅に出ます。
そのただならぬ道行きを描くのですが、その、描きかたが尋常ではないのです。
まず、登場人物には名前はおろか、その人となりすら描かれていません。
そして、同じ文脈の中に、主人公の心象風景が描かれていきます。
読み進めていくと、いつのまにか別なお話になっていくので、夢の中にでもいるような感覚になってしまうのです。
まるで「トリップ」しているかのように。
アンナ・カバンは、ドラッグの常習者であることを踏まえて読むと、この感覚が理解できるかもしれません。
この特異な作品は、どのジャンルにも属しません。
イギリス文学の王道のジャンル(メインストリーム)が「純文学作品」。
そして、ミステリーや、SFなどの娯楽作品は「サブストリーム」です。
そのどちらにもジャンル分けできない作品は、流れから外れたジャンルとして「スリップストリーム」と呼ばれています。
「氷」は、スリップストリームの代表作品です。
この小説を読むにあたって、もう一つ重要なことを知っておく必要があります。
それは、時代時代によって「男から女への求愛の方法」は異なる、ということです。
今では、犯罪になるようなことでも、昔は平気で行われていたりします。
太古の昔には、「略奪」による愛の表現もありました。
この小説の主人公は、どんなに嫌われようともしつこく少女を追い求めていきます。
完全にストーカーです。
が、しかし、
この作品が書かれた時代には、「ストーカ」の概念はありません。
これを踏まえたうえで、この作品を読まないと
この作品の言わんとすることを誤解してしまうかもしれません。
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